羊土社より、専門書『実験医学増刊 Vol.44 No.5 AI・データ駆動型創薬研究 — マルチオミクス×ケモインフォマティクスでより確実な治療標的を見つけ、薬をデザインする』が刊行されました。弊社CTO 都築拓は、本書の第1章「創薬標的の探索」第6節「『認知の律速』を突破するAI駆動知識掘削 — 個別分子解析における“次の一手”の自律的探索」を執筆しています。本寄稿では、標的探索の初期段階における意思決定をAIで高度化し、限られた実験資源のもとで新規標的候補への到達確率と探索生産性を高める枠組みを提示しています。
近年、AIと大規模データの活用は、創薬研究のあり方を大きく変えつつあります。本書は、マルチオミクスとケモインフォマティクスの両面を横断し、創薬標的の探索、医薬品候補分子の探索と最適化、作用機序の解明と評価まで、AI・データ駆動型創薬の現在地を体系的に俯瞰できる構成です。
各章では、第一線の研究者が具体的なアプローチと実践知を解説しており、研究手法だけでなく国内主要プロジェクトや企業事例も含めて整理されています。既存の創薬フローにAIをどう実装し、より効率的かつ確実に標的や化合物を見出すかを考える研究者・実務家にとって、多面的な示唆を得られる一冊です。
都築の寄稿が扱うのは、疾患表現型に関連する遺伝子をどの順番で検証していくべきかという「逐次的分子選択問題」です。現在の生命科学では、取得できるデータ量が飛躍的に増えた一方、それを適切に解釈し次の実験計画を決めるステップは人の認知能力に強く依存しています。その結果、探索対象が既知分子や流行分子に偏りやすく、多くの分子が未調査のまま残されていることが繰り返し指摘されてきました。 本稿ではこの課題を、人間の科学コミュニティの挙動に着想を得た群探索アルゴリズムで解決することを試みています。具体的には、異なる探索ポリシーを持つ複数のAIエージェントが、文献・オミクスデータ・転写制御ネットワーク構造などを入力として独立に候補をスコアリングし、実験結果を全エージェントで共有しながら次の候補選定に反映していきます。多様な仮説形成を並立させつつ成果に応じてエージェントの影響力を動的に調整することで、既知領域の深掘りと未踏領域の開拓を自律的に両立します。本フレームワークは疾患領域を問わず展開可能な汎用基盤として設計されており、既存の創薬パイプラインへの組み込みも想定しています。
細胞老化を対象とした実証では、転写制御ネットワークから抽出した未報告候補8遺伝子のうち5遺伝子で、老化マーカーCDKN2Aの発現上昇を有意に抑制しました。既知分子への偏りを抑えながら、限られた実験資源をより有望な新規標的候補に振り向けられる点で、創薬研究の上流工程の生産性向上に資するアプローチです。
出典: 羊土社 書籍紹介ページ